3月の特別上映[3/11(水)より]

『FUKUSHIMA with BÉLA TARR -filmmakers in residence-』2部作

『FUKUSHIMA with BÉLA TARR -filmmakers in residence-』2部作

 

タル・ベーラ監督の映画制作マスタークラスを目撃する。これは、映画を見るワークショップなのかもしれない。

2011年3月11日の東日本大震災直後に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって住民が避難を余儀なくされた福島県の12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)。「FUKUSHIMA with BÉLA TARR -filmmakers in residence-」は、この場所で芸術家やクリエーターの活動の機会を作る「ハマカルアートプロジェクト」の支援を受け、2024年2月6日から19日にかけて実施された。

7名の参加者は、富岡町(前半)と葛尾村(後半)を拠点に各地で撮影を行い、2月18日には葛尾村で完成作品の上映会が開かれた。FUKUSHIMAでの激動の2週間を、タル・ベーラ監督の愛弟子、小田香監督が記録した。

❶『LETTERS FROM FUKUSHIMA

(2024年/日本/日本語・英語/日本語英語字幕159分)

2024年2月、福島県浜通り。
タル・ベーラ監督を講師に迎え、若手監督7人に向けた映画制作ワークショップが開催された。7名の受講生が制作した短編映画を一挙上映。

 

❷『FUKUSHIMA with BÉLA TARR

(2024年/日本/日本語・英語/日本語英語字幕180分)
撮影・編集・監督:小田 香
グレーディング:長崎隼人|音響:山﨑 巌
プロデューサー:秦 岳志|製作総指揮:冨田三起子

タル・ベーラ監督の映画ワークショップから誕生した「LETTERS FROM FUKUSHIMA」を記録した映像作品。

 

◆『LETTERS FROM FUKUSHIMA』完成した7本の短編

 

🎬Nappo (9min)

福島の子どもたちを小高伝道所に集めたシンガーソングライターのnappo。13年の沈黙を破り、再び楽器が奏でられる。彼らは歌い、踊り、大地に新しい命を吹き込む。

監督・撮影・編集:林柏瑜 LIN Po-yu
1990年、台湾・台北市生まれ。国立台湾芸術大学で映画修士号を取得した新進気鋭の映画監督。短編映画『少年阿堯(Growing Pains)』(2019)は国際的に高い評価を受け、2020年第1回西寧国際映画祭ほか京都学生映画祭で上映された。この成功に続き、『看海(To the Sea)』(2021)は2022年の金馬奨で最優秀実写短編映画賞にノミネートされた。本ワークショップの後、台湾で映画教育に積極的に関わり、現在は初の長編映画に取り組んでいる。

🎬Wall〔庭の壁〕 (28min)

浪江町で造園業を営む男性は、震災後に事務所の移転を余儀なくされた。ある日思い立ち、数年手付かずだった事務所の庭づくりを始める。

監督・撮影・編集:大浦美蘭 OOURA Miran
1994年生まれ。福島県浪江町出身。16歳の頃、高校の放送部に入部したことがきっかけで、ドキュメンタリーの映像制作を始める。武蔵大学社会学部に入学し、卒業制作として『かえりみち』を制作。山形国際ドキュメンタリー映画祭やぴあフィルムフェスティバルにて上映される。大学卒業後はNHKにディレクターとして入局し、主に東日本大震災の被災地を取材。現在はフリーの映像作家として、子育てと両立しながら活動している。

🎬Long Long Hair 〔ロング・ロング・ヘア〕 (23min)

福島県浪江町にある小さな美容室nen。お店で繰り広げられるささやかな会話に、そっと耳を澄ませる。原発事故により避難指示が出されてから13年。大きな過去と続く日常。

監督・撮影・編集:飯塚陽美 IIZUKA Minami
北海道生まれ。映像作家・文化人類学者のたまご。チェコプラハ在住。東京大学大学院博士課程在籍。沖縄の帰還移民についての研究を進める傍ら、イメージフォーラム映像研究所にて映像作品をつくり始める。当時住んでいたベトナムでのロックダウンの様子を、バルコニーから撮影した映画『Lock Up and Down』がぴあフィルムフェスティバルなどに入選。その後、プラハ芸術アカデミーにて学ぶ。現在は高校時代を過ごした、チリに里帰り中。

🎬From F (10min)

Fukushima、Family、Female、Future。福島の通信制高校に通うダンサー志望の17歳を主演に描く、さまざまなFに関する物語。

監督・脚本:清水俊平 SHIMIZU Shumpei
1984年生まれ、パリ出身。海運会社勤務を経て初監督作品『ふざけるんじゃねえよ』(2014)が東京国際映画祭に招待される。東京芸術大学大学院を卒業後、脚本家・坂元裕二の助手、レナート・ベルタのフランス語通訳、マーティン・スコセッシ監督『沈黙 -サイレンス-』(2017)制作部、イザベル・ユペールの付き人を務める。その他の監督作品は『水本さん』(脚本:坂元裕二/2017)など。

🎬Letters from Fukushima (27min)

「女性、命、自由」はジェンダー平等を求めるイランの社会運動。本作は、福島の3つのシーンを通して、尊厳のために人生を捧げた女性たちに敬意を表している。

監督・制作・撮影・編集:ロヤ・エシュラギ Roya ESHURAGHI
1985年、イラン生まれ。コスタリカで人類学を学び、2010年、亡き兄の10回忌にあたり、初の短編映画『Playing with Sand』を制作。翌年、キューバのEICTV国際映画テレビ学校にてドキュメンタリーを学ぶ。ディアスポラを描いた『Derakht (The Tree)』 (2015) は世界4大陸で上映される。日本では『Remembrance』(2014)『Lorenza, la radio y tú』(2014)がなら国際映画祭、『Derakht(The Tree)』 (2015)が山形国際ドキュメンタリー映画祭、なら国際映画祭で上映されている。現在、初の長編映画『A Constant Departure』の制作に取り組んでいる。

🎬The Guests〔旅客〕 (28min)

東日本大震災の後、人材不足となった南相馬市の自動車整備工場で働くフィリピン人労働者の1日に密着。朝目覚め、仕事をして帰宅し、眠りにつくまでを至近距離から撮影した。

監督・編集:徐芷恩 XU Zhien
2003年に湖北省で生まれ、北京で育ったジエンは、2025年に香港中文大学深圳校の理工学部を卒業。彼女は19歳の時に、新疆ウイグル自治区でカザフ族の家族と暮らし、草原を舞台に映画作品を制作し映画の世界へ入る。今回のワークショップにはその短編『The Tower』で応募し見事選ばれた。

🎬Tale of Cows (29min)

原発事故によって取り残された福島県浪江町の牛たちに起こったことが、牛たちの視点で語られる紙芝居「浪江ちち牛物語」。震災を経験した女性ふたりがその物語を語る記録。

監督・撮影・編集:福永壮志 FUKUNAGA Takeshi
初長編編映画『リベリアの白い血』(15)が、ベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品後、ロサンゼルス映画祭で最高賞受賞、インディペンデント・スピリットアワードでジョン・カサヴェテス賞にノミネートされる。長編2作目の『アイヌモシㇼ』(20)は、トライベッカ映画祭で審査員特別賞、グアナファト国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。長編3作目の『山女』(22)は、東京国際映画祭のコンペティション部門等で上映される。そのほかの作品に『アイヌプリ』(2024)などがある。